◆鳥と森
なぜかいつもロシア出国の当日に会うことになる詩人がいる。昼過ぎ,モスクワ北部のソコーリニキ公園の近くに住む詩人の家をたずねた。彼の奥さんは画家で,彼が詩を,彼女が絵を描いて合作を手がけている。
ロシアの画家の家によくあるように,アパートの壁一面に,彼女の作品がかかっていた。多くの作品に不思議な鳥が出てくる。揺れるような筆遣い,淡い色彩で,幻想的な世界を浮かびあがらせる。その中に一枚,いかにもロシアの村を思わせる田舎の家と林を舞台にした小さな絵があった。女性が手に魔法使いの水晶玉のような球を持ち,小屋の前に立つ男性に差し出している。男性は幸せそうに両手を差し伸べている。その男性の表情とロシアの風景が印象的だった。
彼女が森で集めたきのこを使ったスープとお茶を頂き,詩人が長年興味を持っているパリンドローム(回文)の話を聞いた後,飛行機の時間に間に合うように家を辞そうとすると,彼女が微笑んで袋を差し出し,そこにあの絵が入っていた。好きな画家は多くても,この絵がそばにあれば生活がもっと良いものになると思えるような作品は少ない。そんなわけで今,その絵と一緒に飛行機に乗っている。
