◆出国
とうとう出国の日が来た。ロシアの大学院で同窓だった友人たちが訪ねてきてくれた。彼らのほとんどが教職についているが,授業や学校での悩みどころは国境を越えるようで話が盛りあがった。
帰国の日に空港へ向かうタクシーのなかでは,いつも血のかわりに炭酸水が体を流れているような辛い気持になる。毎年ロシアに来るので,ロシアの人々にも「ロシアのどこがそんなにいいの?」とよく聞かれるけれど,一言では答えられない。ここには図書館,共同研究者,美術展,学会など研究に必要なあらゆるものがあり,ロシア現代文化も研究している私にとっては見るものすべてが面白い。でもそれだけではなくて,ロシアでは本当に思っていること,くりかえし考えていることについて率直に話しあえることが多いので,人と触れあっている,生きているという実感がある。ロシアでのコミュニケーションにもソ連的官僚主義の名残りなど否定的な面もあるが,自分の気持ちと言葉で相手との信頼関係をつちかい,道なきところに立っていても自分の四方に道を作っていけるという自由さが,ロシアにひきつけられる大きな理由のひとつかもしれない。
