2010年01月29日

◆ウィリアム・ケントリッジ展

先日、東京国立近代美術館で「ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える そしてドローイングは動き始めた……」展を見た。1955年に南アフリカ共和国で生まれ、「動くドローイング」とも呼ぶことのできるアニメーション・フィルムを制作してきたケントリッジの、国内初の個展となる。

力強くも幻想的なアニメーションによって、アパルトヘイトの歴史や南アフリカの社会状況を描きだしてきたケントリッジが、これほどまでにロシアの歴史と美術に関心を持ちつづけていたと知って、強烈な印象を受けた。数々の作品にちりばめられた詩人マヤコフスキーへのオマージュ、そして、ショスタコーヴィチのオペラ「鼻」を題材にした最新作「俺は俺ではない、あの馬も俺のではない」(2008)では、ハルムス、タトリンら、アヴァンギャルドの先鋭のイメージと共に、ソ連共産党大会の議事録がコラージュされ、20世紀ロシアの熱く暗いスペクタクルを作りだす。ロシア文化に関心を持つ人にとっても、必見の展覧会だ。

2月14日まで。その後、広島市現代美術館に巡回。

2010年01月19日

◆『プロジェクト宮殿』書評

1月17日読売新聞朝刊書評欄に、都甲幸治氏による、イリヤ・カバコフ『プロジェクト宮殿』書評が掲載された。

「日々を生き延びる技術に満ちた本」 、「意外とこれは実用書なのかもしれないと思えてくる」という観点から本書の魅力を評して下さった。本書が書店で、美術や文学の書棚だけでなく、ハウツー本や幸福論のコーナーに並べてもらえれば、本と読者の幸せな出会いがあるかもしれないなどと空想していた訳者としては、望外の喜びの書評だった。

書評のリンクはこちら

2009年12月18日

◆カバコフ『プロジェクト宮殿』

ロシアの現代アーティスト、イリヤ・カバコフの『プロジェクト宮殿』の共訳書が、やっと刊行された!

イリヤ/エミリア・カバコフ『プロジェクト宮殿』
鴻野わか菜・古賀義顕訳
国書刊行会 2009年12月

カバコフが作りだした架空の旧ソ連の人々が提案する「幸せになるため」の65の奇想天外なプロジェクトを、絵本のかたちにしたアートブック。

下記の古いバージョンの訳者前書き(共訳者と何度も書き直したので、本書にはこれとは全然違う前書きが載っている) にもあるとおり、大人のための絵本、ファンタジー、不条理文学、SFとしても愉しめる、ユーモラスだがどこか切ない不思議な作品だ。

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日常を離れて旅に出よう――訳者まえがき

わたしたちは毎日が心配ごとでいっぱいで、身も心も緊張し、課題や仕事に追われています。そういうことから逃れてひと休みするためにはどうすればいいでしょうか。まず、自分の部屋の壁ぎわの床に小さなマットレスを敷いて、壁に幼いころに好きだった絵本の挿絵を画びょうで留めましょう。このマットレスに横になって絵本の挿絵を眺めたら、あなたは幸せな子供時代に戻ることができるはずです‥‥‥

あるいはこんな方法もあります。まず、夜のとばりが降りたら自分の部屋でひとりになって机につき、部屋のあかりを消します。それから机のほんの一角だけを照らすようにランプをつけます。するとあなたはただちに気づくでしょう。目のまえに思いもよらぬ新しい神秘的な世界が現れていることに。メモ帳、ペン、定規、クリップの箱、消しゴムなど、日ごろ机の上にあるありふれたモノたちが、この魔法の光の円のなかでは、あなたがそれまで思いもよらなかった姿をしている。なによりあなた自身が変わってしまう。あなたはみるみる縮んでいき、光を浴びた訳のわからない巨大な物体に囲まれて、物体のひとつひとつを見てまわるのです。

心を静めるために、食料、水、ラジオ、本などを持ってクローゼットに閉じこもるのもいいかもしれません。天井の近くの棚に動物や樹木の模型を並べて自分だけの「天国」を作って眺めるのもよいでしょう‥‥‥

――これは、旧ソ連出身の現代作家イリヤ・カバコフが本書で提案する65のユニークな “プロジェクト”の一部です。『プロジェクト宮殿』は、旧ソ連に住む人々の夢や計画を保存する博物館として構想された巨大な立体作品ですが、作品のストーリーを絵と文章で表した“アーティスト・ブック”である本書は、大人のための絵本として、また、ファンタジー、不条理文学、空想科学小説として愉しめる独立した作品になっています。

本書に登場するのは、基本的にはカバコフが作りだした架空の人物たちです。天使の羽を背につけることで優しい人間になろうとする車掌、古着や雑誌の切り抜きなどありとあらゆるゴミをとっておくことで思い出をつなぎとめようとする音楽教師など、ごく普通の人々がささやかな夢や計画を語ります。なかには、輝くロケットで夜空を照らしだす地球規模の夜間照明や、都市の中に自然をとりいれた未来都市の建設、正真正銘の「時間旅行」など、近未来的、ユートピア的なプロジェクトを提案する人々もいます。これらのプロジェクトはみな、他愛がなくて荒唐無稽なだけにどこかもの悲しくもあるのですが、作者は宮殿の「建設」によって、実現しなかった夢や希望に永遠の居場所を与えようとします。

ですが、『プロジェクト宮殿』は、壊れた夢を保存するたんなる記憶の冷凍庫ではありません。ここに収められたプロジェクトは、崇高なものから不謹慎なものまで、どれもとびきりの冗談のようでありながら、生活をよりよくしたい、切符も買わず列車にも乗らずに苦しい日常を離れて「旅」に出たい、世界をもっと住みやすい場所にしたいという切実な願いに貫かれています。わたしたちは本書におさめられた65のファンタジーの世界を旅しながら、いつしか自分たちの日常を今までとは違うまなざしで見ることができるようになるでしょう。本書を読み終わるころには、わたしたちの頭や心は常識やストレスから解き放たれて、日常を楽しむための自分だけのプロジェクトを自由気ままに思いつくようになっているかもしれません。

それでは旅に出かけましょう。明日、今日と同じ場所で、今日とは違う世界を目にするために。

2009年10月24日

◆ロシアの夢1917-1937

埼玉県立近代美術館で、ロシア・アヴァンギャルドの美術展「ロシアの夢 1917-1937」が開催されています。
カタログの資料翻訳を少しだけお手伝いしました。

期間:2009年10月10日(土)~2009年12月6日(日) 

美術展概要(同館HPより)
1910年代のロシア・アヴァンギャルドの芸術革命は、1917年のロシア革命によって、国家の夢と重なり合います。新たな社会を夢見ながら、アーティストたちは絵画や彫刻を超えて、グラフィック・デザイン、陶器、ファッション、演劇、建築などへと活動の場を広げてゆきました。本展は、ポスターや雑誌、絵本などのグラフィック・デザインや、食器やテキスタイルなどの生活用品、演劇の舞台原画、建築のエスキース、また当時を彷彿とさせる写真資料などを加え、1920年代から30年代を中心に、ロシアが夢見たユートピアを探ります。

2008年11月22日

◆ロシアの絵本の魅力と日本

『ユーラシア研究』(第39号、ユーラシア研究所編/東洋書店刊)が発行された。
「特集1」は,「新プーチン体制とユーラシア」。
そして「特集2」は、「ロシアの絵本の魅力と日本」。以下の4本が収録されている。

松谷さやか 日本で出版されたロシアの絵本
沼辺信一 初めて日本語になったロシア絵本
岩本憲子 「おもしろい絵本を!」という子どもたちの声に応えて
鴻野わか菜 非公認芸術と絵本~イリヤ・カバコフ『世界図鑑』

『ユーラシア研究』は,「ロシア・ユーラシア地域の総合的研究雑誌で,「経済、社会、政治はもとより文化、歴史、芸術、教育、科学、スポーツなど幅広い分野を研究対象とすることにより、この地域の理解の深化、知識の普及」を目指している。バックナンバー等の情報はこちらで。

2008年06月29日

◆イリヤ・カバコフ「世界図鑑」絵本と原画展(最終!)

イリヤ・カバコフ「世界図鑑」絵本と原画展が、以下の日程で足利市立美術館で開催されます。
日本でカバコフ絵本展を見る最後の機会になります。ぜひご観覧下さい。

2008年7月19日(土)~9月14日(日)
足利市立美術館
休館日:月曜日(ただし7月21日は開館)、7月22日、8月19日は休館

◇講演会 「イリヤ・カバコフ 作家と絵本」
日時:7月19日(土) 15:00~
講師:鴻野わか菜
定員100名 
参加費無料*

◇ワークショップ「アルバムをつくろう」
日時:8月30日(土) 14:00~ 
講師:井上夏生(製本家、マルミズグミ代表)
定員15名 
対象:小学生低学年以上(小学校低学年のお子さんがご参加の場合は、保護者の同伴をお願いします)
参加費1000円*

*会場:足利市立美術館多目的ホール

各プログラムご参加の場合は電話0284-43-3131でお申し込み下さい。定員になり次第締め切ります。
展覧会観覧の場合は別途観覧料(高校生以上)が必要となります。

2008年05月05日

◆青春のロシア・アヴァンギャルド展

6月21日から渋谷Bunkamuraで,1999年に開館したモスクワ市近代美術館の所蔵展である「青春のロシア・アヴァンギャルド シャガールからマレーヴィチまで」が開催される。

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カンディンスキー,タトリン,シャガール,マレーヴィチをはじめ,ナターリヤ・ゴンチャローワ,ダヴィード・ブルリューク,エル・リシツキー,ミハイル・ラリオーノフ,アリスタルフ・レントゥーロフ,パーヴェル・フィローノフら,30人の作家の70点の作品が展示される。第二次世界大戦期にロシア,フランス,北欧の国々を居場所と仕事を求めて転々とし,最期はパリでナチスの手に落ちたウクライナ系ユダヤ人画家ウラジーミル・バラーノフ=ロシネー,静物画の詩人ダヴィート・シュテレンベルグの作品も見所である。

本展の中核となるのは,ロシア未来派の旗手マレーヴィチと,グルジアのプリミティヴィズムの作家ニコ・ピロスマニ(ピロスマナシヴィリ)の各10点の作品である。グルジアの首都チフリスの居酒屋や商店で,日々のまかないとひきかえに装飾画を描いて糊口をしのいだピロスマナシヴィリの生涯は,ロシアの流行歌『100万本のバラ』やブラート・オクジャワの歌のモデルになり,ゲオルギー・シェンゲラーヤ,セルゲイ・パラジャーノフ監督によって映画化されるうちに,愛と絵に生きた放浪の作家として伝説的な存在になっていった。

本展のカタログのエッセーを書くために,当時のロシアの作家や画家達が記したグルジア旅行記や作品集を読んだ。ピロスマナシヴィリの神話化は,1913年,死の5年前にロシア未来派の作家達に「発見」され,モスクワの展覧会で遅いデビューを飾った時から,ロシアの美術界だけでなく文学界でもすでに始まっていた。急速に閉塞感を増すソ連初期を生きた作家達は,多元的なチフリスとピロスマナシヴィリの世界に,自分たちが失った理想郷を重ねあわせたのである。

ピロスマナシヴィリの画業と生涯は,四方田犬彦,山口昌男ら各氏のエッセーとともに作品を紹介した画集『ニコ・ピロスマニ―1862-1918』(文遊社,2008年3月刊)でも触れることができる。

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2008年04月18日

◆ロシア現代芸術における挑発的なスピリット

武蔵野美術大学の図書館展示室で,5月8日~24日に,「ヤング,アグレッシヴ ロシア現代芸術における挑発的なスピリット」が開催される。社会や宗教を挑発する平面・映像作品で知られるダヴィッド・テル=オガニャンをはじめ,現代ロシアアートシーンの新しいパワーに光をあてた展覧会。美術界の「新入り」である作家たちをとりあげ,「制度化」される前のアートの生々しい姿を提示しようとする。

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会 期 :2008年5月8日 [木] ~5月24日 [土]
会 場 :武蔵野美術大学美術資料図書館1階展示室
休館日 :日曜休館(5月18日(日)開館)
時 間 :午前10時より午後6時
     (金曜日午後8時閉館 日曜開館日午後5時閉館)
入館料 :無 料
主 催 :武蔵野美術大学美術資料図書館
企画協力:ロディ・オン(本学博士後期課程)
オープニングイベント,レクチャー等の情報は同大学図書館サイトで。

参加作家
アレクサンドラ・ガルキナ
アレクセイ・ブルダコフ
ダヴィッド・テル=オガニャン
イーゴリ・ベズルーコフ
ピョートル・ブィストロフ
プロヴムィザ
ラデクソサエティ
ワレーリー・チタク
ウラジーミル・クストフ
ホエア ドックス ラン
イェヴゲニ・ユフィット