◆春のカフカ
コブシやモクレンが、まるでゴッホの「花咲くアーモンドの枝」のように青空に白く浮かびあがる春の日に、学生たちが巣立っていった。皆、思い思いに着飾って、幸せそうな一日。時間が足りず、全員に直接お別れを言えなかったのが心残り。Желаю Вам счастья!
そういえば、少し前に読み終わった村上春樹の『海辺のカフカ』の最終章の一節は、卒業の日に思いかえすのにふさわしい。
「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける」、ベルが鳴りやんだあとで彼は言う。「大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なあり方を知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。掃除をしたり、空気を入れ換えたり、花の水をかえたりすることも必要だ。言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる」
(『海辺のカフカ』)
フィンセント・ファン・ゴッホ「花咲くアーモンドの枝」(1890)
