◆野良犬の記念碑
BBC.Russianに書いた記念碑についてのエッセーに読者がコメントを寄せてくれて、ロシアにも犬の記念碑があることを知る。殺された野良犬の記念碑だという。
その犬はモスクワの地下鉄のメンデレーフスカヤ駅に住みつき、「マーリチク(男の子)」という名で呼ばれて、地下鉄の職員たちに可愛がられていたが、ある日、ナイフで惨殺されてしまった。その数年後の2007年2月に、「同情の印」として、また、「人々の関係もより良いものになるという望み」をこめて、殺された犬の銅像が同駅に建てられた。
忠犬ハチ公の物語が映画化されて話題を呼んだが、ロシアの野良犬の物語も、もし映画化されれば興味深い作品になるかもしれない。迷子になった子猫の視点をつうじて新生ロシアの混乱と人情を描いたイワン・ポポフ監督の『こねこ』が好例だが、無力な動物の視点で社会を描く時、世界の残酷さもあたたかさも、いっそう際立って表れてくる。
もちろんそれは、映画だけではなく、文学でもしばしば用いられる手法だ。たとえば、コンスタンチン・セルギエンコが野良犬たちの夢をつづった児童文学『さようなら、谷よ』のように。あるいは、19世紀の作家イワン・ゲンスレルが猫を主人公にペテルブルクの風俗をユーモラスに描きだした小説『本人の語りによる猫ワシーリイ・イワーノヴィチの伝記』 のように。ロシア版の『吾輩は猫である』ともいえるゲンスレルの小説は、今まだ読んでいる最中だが、ゴーゴリ的な文体が小気味よく、笑いを誘いもするし、ほろりともさせる。
メンデレーフスカヤ駅の殺された野良犬の記念碑
