2009年05月17日

◆フセヴォロト・ネクラーソフ逝去

5月15日,ソ連非公認文学を代表するミニマリズムと視覚詩の詩人フセヴォロト・ネクラーソフが亡くなった。享年76歳。

1934年にモスクワで生まれ,50,60年代には,エヴゲーニイ・クロピヴニツキー,ヤン・サトゥノフスキー,イーゴリ・ホーリンらと共に,非公認文学・美術のグループ「リアノゾヴォ」で活躍した。

モスクワの図書館で彼の朗読を何度も聞いた。雪のように静かな彼の声を味わうには,個人宅での私的な朗読会もふさわしかった。2000年頃,モスクワの詩人ナターリヤ・オーシポワの家で久々にネクラーソフの私的な朗読会が開かれた。聴衆は10数名。居心地の良い居間は親密で張りつめた雰囲気で満たされ,詩人の声は,開かれた窓から夜に溶けていった。詩の朗読の後は,ロシア風オープンサンドやチョコレートをつまみ,紅茶を何杯もお代わりしながら,詩や美術についての気軽で楽しいおしゃべりで,夜が更けていった。

ネクラーソフの詩を愛する画家たちが,彼の詩文集の出版を記念して集まったクローキン・ギャラリーでの催しで,ネクラーソフは私に本をプレゼントしてくれ,「いつか君のため日本のテーマで詩を書いてあげよう」と言った。古い樹木のように,時に厳しく,時に穏やかだった詩人の目は,その時優しく丸まっていたが,その目は私の向こうの遠い光の平原を見ているようでもあった。

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ネクラーソフ詩集より
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朝 ぼくたちのところには
太陽をいれた紅茶があり

夜には
月を浮かべた牛乳がある

そしてモスクワには
電気と
炭酸水

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春 春 春 春
春 春 春 春
春 春 春 春

そしてほんとうに春

2009年05月03日

◆モンプレジールの終わり

『神奈川大学評論』62号(2009年3月)の特集は,「世界 同時代の文学―グローバル化と自由の現在」。岩本和久さんの翻訳による,ロシアの現代作家オリガ・スラヴニコヴァの短編『モンプレジールの終わり』が掲載されている。

現代ロシアのとある町。ソ連時代には若い非公認画家たちで賑わったその家で,今では一人の画家が食うや食わずの生活を送っている。忘れ去られたその場所をごくたまに訪れるのは,時代の波に乗って器用に転身した友人や,絵を安く買い叩いてはニューリッチに売りつける画商だけ。やがてその家はブルドーザーでとり壊されるのだが,その結末に,1974年のモスクワ郊外で非公認芸術家たちの野外展覧会を当局のブルドーザーが破壊した「ブルドーザー事件」を重ねあわせる岩本氏の解説も興味深い。

同誌には,現代における文学の意義と可能性をめぐる亀山郁夫×吉岡忍の対談や,エステルハージ・ペーテルの講演録(訳:早稲田みか,解説:沼野充義)も掲載されている。詳しくはこちら