2008年12月27日

◆12人の怒れる男

遅ればせながら,先日,ニキータ・ミハルコフ監督の『12人の怒れる男』(2007年,ロシア)を見た。その名の通り,シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』(1957年,アメリカ)のリメイクである。

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両親をチェチェン戦争で亡くした少年が,義父であるロシア軍将校を殺害した罪に問われて裁判にかけられ,12人の陪審員達に少年の運命が委ねられる。たった1人の陪審員を除いて,最初は,皆が少年は有罪だと確信していたが,議論を重ね,殺害現場を再現するうちに,1人また1人と意見を翻していくというストーリーは,ルメットの原作と同じである。もっとも,それぞれの陪審員が,事件との連想で思い出した自分の過去や体験を,ドストエフスキーの登場人物さながらの長広舌で語るところは,きわめてロシア的だ。監督自身が演じる1人の陪審員の発言によって,事態が急展開するラストの数分にも,原作とは違う驚きがある。

プーチン体制下の新生ロシアで,国民に「強き良きロシア」への愛国心をかきたてる『シベリアの理髪師』を制作した「ミハルコフらしさ」は,この映画でも存分に発揮されている。『12人の怒れる男』に登場するロシア人将校達は,誰もが,非現実的なまでにチェチェン人への友愛の念に貫かれているのだ。

だが,陪審員制度は日本人にとってはタイムリーな話題とはいえ,なぜ今ロシアで『十二人の怒れる男』のリメイクなのか。

ちょうど今週,2000年にチェチェン人の18歳の少女エリザ・クンガーエワを強姦して殺害し,チェチェンの民間人を殺害した罪で初めて有罪判決を受けたロシア軍大佐であるユーリー・ブダーノフが,10年の刑期を終える前に釈放されるというニュースが報じられた。ブダーノフ裁判は,精神喪失状態にあった被告に責任能力はないという鑑定が出され,有罪判決を下した裁判官が弾圧されるなど混乱を極め,アムネスティから批判を受けるなど,当時内外の注目を集めた。「チェチェン」,「ロシア軍大佐」,「裁判」と聞けば,今でもロシアでは誰もがブダーノフ裁判を想起するだろう。そうした暗い現実を隠蔽するためにこそ,ミハルコフは,チェチェンと裁判を扱った作品を作るにあたって,ハリウッド映画のリメイクという大がかりな装置を必要としたのかもしれない。

2008年12月13日

◆『本が好き!』2009年1月号

『本が好き!』2009年1月号(光文社)の特集は,<今年読んだ「最高の1冊」>。
今年刊行された本でなくても良いとのことだったので,世界文化賞受賞,モスクワでの初の大回顧展開催などまさに「カバコフ・イヤー」だった2008年を振り返り,『イリヤ・カバコフ自伝 60年代―70年代,非公式の芸術』(鴻英良訳,みすず書房)を紹介した。本書は,60-70年代ソ連文化論としてもユニークな視座を提供している。

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『本が好き!』のページはこちら

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2008年12月09日

◆BBCロシア・ブログ

BBC Russian comのサイトで,「外国人のロシア冒険」欄の担当を始めた。各国のブロガーと一緒に,外国人の目から見たロシアの生活,文化をロシア語で紹介していく。

私の初回の記事は,「ロシアで会った忘れえぬ人々」。
ロシアでは,路上や店などで偶然一緒に居合わせた人たちとのあいだで,それから先もずっと忘れられないような会話をすることが,日本にいる時よりも頻繁に起こる気がする。

今回の記事では,ある吹雪の夜にモスクワ郊外の路上で,天使のようにどこからともなく現れて去っていった不思議な老人との出会いと,夏の夕暮れの警察で酔っぱらっていた気さくな警官との会話について書いてみた。

記事は,今後不定期に更新していく予定。