2008年01月30日

◆1901/2008.1.25

今学期は大学院の授業で,ロシア象徴主義詩人アレクサンドル・ブロークを読んでいる。

1月25日の授業では,「永遠の女性」との邂逅と,救済への希望と絶望を歌った初期詩集『麗しの婦人の詩』の第三部を読み終わり,読み残していた第一部に入った。この詩集の冒頭の詩は,ちょうど107年前のこの日に,当時20歳だった詩人によって書かれた。


私は外へ出た。冬の夕闇が
大地にゆっくりと降りてきた。
過ぎし日の若き思い出が
信頼して闇からやってきた……

思い出は肩越しに立ち
風とともに春について歌った……
私はひそやかな足取りで歩いた。
深淵のなかに永遠を予見しながら……

ああ,良き日々の生き生きした思い出よ!
深淵から聞こえてくるおまえたちの歌にあわせて
夕闇が大地へ降りてきた
そして永遠の夢が現われた!

1901年1月25日 サンクト・ペテルブルク

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写真 2003年夏,ロシア

2008年01月27日

◆古いシルクハットから出た話

アヴィグドル・ダガン『古いシルクハットから出た話』(阿部賢一他訳,成文社)を読む。ダガンは,当時オーストリア=ハンガリー領だったフラデッツ・クラーロヴェー(現チェコ)で生まれたユダヤ系作家で,イスラエルの外交官として世界を転々としながら,チェコ語で執筆を続けた。

イタリア,日本,アイスランド,ビルマ……,各国を渡り歩く外交官たちの「華やかな」生活を,故郷を追われたユダヤ人の運命にも似た「さまよいの物語」として描きだす本書は,そのあざやかな語りの力によって,孤独と光に満ちた世界地図を幻視させる。

主人公である語り手は,外交官時代に東京の高島屋で購入し,長年愛用したという古いシルクハットから,数々の物語を取りだしてくる。シルクハットの中の黒い闇は,実に多くの登場人物が亡くなるこの小説における重要な空間である。ポーランド系ユダヤ人としての出自を隠して生きることに孤独を感じていた美貌の外交官妻は,ユダヤ系の愛人との密会先へ向かう途中で,車もろとも電車に吹き飛ばされる。死期を悟った老英国大使はオスロで自死し,愛犬があとを追う。つねに「優等生」だったオーストリア人外交官は,愛人と妻子に捨てられ衰弱して死ぬ。かれらは皆,シルクハットの中の黒い死の空間に呑みこまれるが,やがて姿を変えて手品のようにふたたび世界に飛びだしてくる。鳩,トランプ,花のように色とりどりの物語となって。

2008年01月21日

◆AVANTGARDE

現代ロシア美術作家50人を大判のカラー図版を駆使して紹介するという,贅沢な企画が実現した。インターナショナル・アート・マガジン『AVANTGARDE』第4号,<現代ロシアンアートの50年 アーティスト50人特集>である。

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現代ロシア美術作家の中から,どの50人を選ぶか。それは,「現代ロシア美術」の起点をどこに置くかという問題にほかならない。そこで,ロシア・アヴァンギャルド世代が相次いで世を去り,ソ連非公認芸術が息を吹き返しはじめた1956年を,ロシア現代美術史のひとつの始まりとし,約50年というスパンを設定して50人の作家を選びだすことにした。いうまでもなく1956年は,フルシチョフによるスターリン批判の年でもある。

1番目にあげた作家は,イリヤ・カバコフ。50人の中にはカバコフより上の世代も含まれているが,その後のロシアアートシーンに多大な影響を与えたカバコフは,やはり現代ロシア美術の祖の1人である。カバコフの次には,彼と同時代に活躍し,平面作品では互いにきわめて良く似た表現方法をとりながらも,その後,袂を分かったヴィクトル・ピヴォヴァロフを選んだ。

一群のソ連非公認芸術家の後には,カバコフらを「父の世代」と呼び,新時代にふさわしいアートを作りだそうと試み,ペレストロイカ期にパフォーマンス・アートで一世を風靡したオレク・クリークらがやってくる。リストの最後に来るのは,クリークへのカウンター勢力として出現した1970,80年代生まれの若手作家たち。きわめて荒削りな図式ではあるが,この50年間のロシア美術の変化を捉える枠組みのようなものを作ってみたかった。

ソ連のグロテスクな日常にひそむ詩情を描いたオスカル・ラビン。精神病院への入退院をくりかえしながら,みずみずしい花の絵に生への希望を塗りこめたウラジーミル・ヤコヴレフ。一族の記憶をアーティストブックに織りこんだヴェーラ・フレーブニコワ。「水の作家」アレクサンドル・ポノマリョフ…… ユニークで多様な現代ロシア美術の50年を,ぜひ眺めてみてほしい。

同書に収められた,現代ロシアの美術館と文化統制の問題を克明に記した沼野充義氏の「ロシア現代美術紀行」,カバコフの絵本と原画展を通じて,美術をめぐる状況を浮かびあがらせた籾山昌夫氏の論考も必見である。

2008年01月12日

◆広島

広島市現代美術館に,イリヤ・カバコフ絵本展が巡回したので,先月,レクチャーのために広島に行った。広島には10年余住んでいたが,1989年に開館した同美術館に行くのは初めて。今まで,色々な面白い展覧会を見逃してしまった。建物は黒川紀章による設計であり,特徴的な半円形の展示室がある。ゆるやかな弧を描いて一面に絵本が並んでいる展示を見ると,ソ連時代を見渡しているような気にとらわれる。

夕方,閉館1時間前にひろしま美術館に駆けこみ,常設展を見た。フランス印象派のコレクションとしては日本屈指といわれる美術館で,本館の閉じた円形の空間には,瞑想的,音楽的な空気が漂う。私にとって「美術館」の原型のようなものがあるとすれば,数え切れないくらい通ったこの場所である。

久しぶりなので,小学校時代を過ごした海辺の町まで足をのばし,町をぶらぶら散策した。冬の朝,近所の公園には子供の姿はなく,動物の形をした遊具は,昔と同じように欠けていた。

hiroshima

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2008年01月10日

◆謹賀新年

明けましておめでとうございます
今年もどうぞ宜しくお願い致します

2008年1月

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サン・ガルガーノ修道院 アンドレイ・タルコフスキー『ノスタルジア』の舞台 2007年春