2007年09月29日

◆カバコフ 赤い車輌

神奈川県立近代美術館葉山で開催中のイリヤ・カバコフの絵本展の準備をしていた時,カバコフのインスタレーション<赤い車輌>の構成を予感させるアイデアが,初期の絵本にもすでにあったことを知って,一刻も早くこの作品を見たくなった。

10年以上前から,写真とテクストだけを手がかりに想像をふくらませてきたこの作品を,この夏,やっと見ることができた。<赤い車輌>は,フランクフルトから電車で40分の温泉町ヴィースバーデンの美術館で常設展示されている。

カバコフが1991年に制作した立体作品<赤い車輌>は,ソ連の歴史をアイロニカルに概観している。3部構成のこの作品は,空へ続く階段,車輌,車輌後部のゴミ捨て場から成り,各部はそれぞれ,未来への希望に満ちたソ連初期,1934年から1963年までの「スターリン・ソヴィエトの永遠の楽園」の時代,凋落の時代を表現しているという。

実際に作品を見ると,車輌の前部を覆っている「空へ続く階段」は,未来へ続く階段という前向きのイメージではなく,未来を信じてのぼってはみたものの,階段は宙で途切れていて行き場を失うという,足元をすくわれるような喪失感を呼びおこす。カバコフの後期のインスタレーション<プロジェクト宮殿>の<天使に出会う>という作品の構図にも似ている。

車輌の中に入ると,予想よりも幅が広く,アレクサンドル・ブロークの戯曲に出てくるロシアの場末の見せ物小屋の雰囲気が漂っていた。それでいて,薄闇の中でソ連の楽園画が浮かびあがる室内は,心地よい郷愁を感じさせ,どうにも外へ出たくなくなる。カバコフの作品には,クローゼットに閉じこもる男の話がよく出てくるが,<赤い車輌>の閉じた世界も,それらのクローゼットに通じている。

ヴィースバーデン美術館は,今後カバコフの常設展を充実させていくとのこと。<プロジェクト宮殿>が常設されているエッセンと並んで,カバコフを知るためのいっそう重要な場所となるだろう。

写真:ヴィースバーデン美術館外観

ヴィースバーデン美術館
Friedrich-Ebert-Allee 2, 65185 Wiesbaden, Germany
(ロシアからドイツに移住し,ヴィースバーデンで没した画家アレクセイ・フォン・ヤヴレンスキー(1864-1941)のコレクションも充実している。)

2007年09月25日

◆プラハ・ビエンナーレ

チェコとスロヴァキアの唯一のビエンナーレとして,2003年以降,中欧からアートを発信する意義を問い続けているプラハビエンナーレ。第3回となる今回のテーマは,「グローカルとアウトサイダーたち 中欧で世界を結ぶ」であり,チェコ,スロヴァキア,ハンガリーなど中東欧の作家が数多く選ばれた。

難民問題を扱ったチェコの若手写真家カテリーナ・ドルシコヴァーら,現代作家のセクションに加えて,「チェコのミニマリズム」や「東欧のキネティック・アート」など,東欧と世界の連動性を示したセクションも工夫されている。

調査から1ヶ月たった今でも,ふとしたきっかけで鮮明に思いだすのは,イラン出身の映像作家シリン・ネシャットの感覚的な映像作品だ。ネシャットは,第6回ヒロシマ賞を受賞し,広島市現代美術館で紹介された他,金沢でも展示されたことがある。プラハ・ビエンナーレの詳しい展評は,『美術手帖』10月号で。

写真:プラハ・ビエンナーレ会場 カルリーン・ホール

2007年09月11日

◆日本ロシア文学会プレシンポジウム「生きのびるためのアート――ロシア美術の最前線」

ソ連崩壊から15年。アヴァンギャルド,社会主義リアリズムを経て,ロシアの美術は現在いかなる位相に立っているのでしょうか。このシンポジウムでは,ロシア文化の最前線を紹介しながら,美術と建築,文学,絵本,パフォーマンスの関係,現代アートの状況,世界における現代ロシア文化について,文学研究者と美術・文化学者双方の立場から,幅広い見取り図を描きだします。

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日時:2007年10月26日(金) 18:00-20:00(開場17:30) 
会場:千葉大学西千葉キャンパス けやき会館ホール
住所:千葉市稲毛区弥生町1-33
総武線西千葉駅から徒歩2分,京成みどり台駅より徒歩7分
入場無料,予約不要

大学までのアクセス構内図

講演
飯島洋一「破壊と現代」(多摩美術大学)
籾山昌夫「イリヤ・カバコフ『世界図鑑』展をめぐって」(神奈川県立近代美術館)
鈴木正美「言葉と行為――二人のパフォーマーをめぐって」(新潟大学)

コメンテーター:貝澤哉(早稲田大学),福間加容(千葉大学)
司会:鴻野わか菜(千葉大学)

日本ロシア文学会主催,千葉大学文学部共催,神奈川県立近代美術館協力
お問い合わせ先:プレシンポジウム「生きのびるためのアート――ロシア美術の最前線」実行委員会 russian_artアットマークhotmail.co.jp (アットマークを@に変えて下さい)

2007年09月05日

◆ボリス・グロイス教授 特別講演のお知らせ

ボリス・グロイス教授特別講演
『全体芸術様式スターリン』再考

ボリス・グロイス博士は,カールスルーエ造形大学(美術史・メディア理論科)の教授で,1960-80年代のロシア非公認芸術の分析や,ロシア文化の哲学的考察に関する画期的な研究で知られています。本講演では,グロイス教授の主著である『全体芸術様式スターリン』(ドイツ語版1988,英語版1992,ロシア語版1993,邦訳は2000年に現代思潮新社から亀山郁夫他訳で刊行)を現在の視点から再考します。アヴァンギャルドと社会主義リアリズムの関係,ロシア現代美術の概観,ロシアの文化状況の変化や,本著の受容や意義について論じていただきます。専門的関心をお持ちの皆様のご来聴を歓迎いたします。

講義・討論はロシア語,通訳なし。入場無料,予約不要。

日時 2007年9月16日(日) 午後4時-6時
場所 東京大学(本郷キャンパス)文学部3号館7階スラヴ文学演習室

住所 113―0033 東京都文京区本郷7―3―1
交通 地下鉄丸ノ内線・大江戸線「本郷3丁目」,南北線「東大前」,千代田線「根津」など下車,いずれも徒歩10分
東大構内案内図はこちら,東大本郷キャンパスへのアクセスはこちらを御覧下さい。

主催:日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域V-1「伝統と越境――とどまる力と越え行く流れのインタラクション」(プロジェクトリーダー:沼野充義・東京大学)
第2グループ「越境と多文化」(代表者:楯岡求美・神戸大学)

2007年09月02日

◆イリヤ・カバコフ『世界図鑑』絵本と原画

9月15日,神奈川県立近代美術館葉山館で,「イリヤ・カバコフ『世界図鑑』絵本と原画」展が始まる。

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今年のヴェネツィア・ビエンナーレにも参加し,日本でも水戸芸術館,森美術館などで大規模な個展を開催し,世界的に活躍してきたイリヤ・カバコフ。

1933年に旧ソ連(ウクライナ)で生まれたカバコフは,ソ連時代を主にモスクワで過ごし,当時の状況では発表することのできなかった作品を非公認に制作しながら,絵本の挿絵画家として生計を立てていた。1956年から1989年に出版されたカバコフの絵本は,100冊以上にのぼる。

本展は,絵本の挿絵画家としてのカバコフの重要な一面を,約100冊の絵本と、その原画約1000点によって,世界で初めて本格的に紹介するもので,現代アート,ソ連文化,社会主義と芸術,非公認芸術と公認芸術の関係を考える上で,きわめて興味深い視点を提供している。

カバコフが,ロシア系ユダヤ人としてのアイデンティティを問い直すきっかけとなった書籍『オーシャと友達』(ブジ・オレフスキー)の原画も展示される。カバコフという作家のユダヤ性や,ソ連におけるユダヤ文化について再考するための貴重な資料であり,こちらも世界初公開である。

それと同時に,動物や子どもたちの生活を描いたカバコフの愛らしい挿絵もたっぷり展示される。マルシャークやチュコフスキーなど,ロシアの児童文学を代表する作家の絵本もあれば,『ピーターパン』,『長靴をはいた猫』などの名作絵本も登場する。日本ではあまり知られていない東欧や中央アジアの童話や民話の絵本も出展され,児童文学とファンタジーの奥深さに驚いてしまう。

本展の詳細はこちらから。初日の9月15日には,カバコフと批評家ボリス・グロイスによる,絵本をめぐる公開対談が予定されている。