2006年05月30日

◆サミズダート

以前、ロシアに同時期に留学していたイタリア人の知人が、帰国後、『サミズダート』という雑誌を創刊した。サミズダートはロシア語で「地下出版」という意味。

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スラヴ語、スラヴ文学・文化研究が盛んで、ロシアからしばしば作家や研究者を招いてシンポジウムや学会を催しているイタリアでも、若手研究者の就職状況はとても厳しい。こんな状況の中で、『サミズダート』は若手の交流と研究のために創られた。表紙やホームページもスタイリッシュで、現代文学・文化についての論文、書評が多い。

ソ連時代も、新しい風、新しい文学は「サミズダート」から生まれてきた。大学においてすら文学研究が「マイナー」な分野としてみなされがちな現在、「地下」からこうして声をあげていくことだけが、明日を創っていくのかもしれない。

2006年05月29日

◆アナテマ

ネオ・リアリズムの作家として出発し,のちに象徴主義的な作風に転じたレオニード・アンドレーエフ(1871-1919)の戯曲『アナテマ(悪魔)』を読んだ。

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貧しい露店を営む老いたユダヤ人ダヴィード・レイゼルのもとに悪魔が現れ,レイゼル一家を大富豪にしたのち,ふたたび一家を奈落の底に突き落とす。ダヴィードに精神的試練を与える悪魔との問答や,人民の救済にめざめるダヴィードの姿は,あきらかに聖書のイエス像をふまえている。

ロシア文学におけるユダヤ人像を調べるために読みはじめたが,読了したところで,カジミール・マレーヴィチがこのアンドレーエフの戯曲をテーマに一連の絵画を制作していることを知り,マレーヴィチの戯曲解釈に興味を持った。上にあげたのは,悪魔の奸計に陥ったダヴィードの最期を描いた一枚。アンドレーエフの特徴である「灰色の空間」の重苦しさが伝わってくる。


K. Malevich. Anatema. 1909.

2006年05月27日

◆チシコフのハルムス

3月末にロシアから船便で送った書籍小包が届いた。

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これは,レオニート・チシコフが挿絵を描いたダニイル・ハルムスの『出来事』。
プーシキンとゴーゴリが際限なく転びつづける話,6の次に7が来るのか8が来るのか分からなくなって町中をかけまわる男たちの話など,ハルムスの不条理で不気味な世界に,チシコフの奇妙な生物たちの絵がマッチしている。

この本は,モスクワのニコーリスカヤ通りにあるクラブ《ピロギ》で偶然見つけた。地下なので空気は悪いが,手頃なカフェと,文学書を集めたユニークな書店,詩の朗読会やコンサートのためのミニホールがある。クラブハウスサンドイッチをつまみにビールを飲んで何時間も過ごせるありがたい場所。


Daniil Kharms. Sluchai. [Khudozh. L. Tishkov] M.: Mir kul'tury. 1993.

2006年05月26日

◆フリークスも人間も

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恐ろしいものは水に乗ってやってくる。

アレクセイ・バラバーノフ監督の『フリークスも人間も』(1998)の一場面をペテルブルク論の授業で使う。

映画の舞台は20世紀初頭のペテルブルク。倒錯趣味を持つヨハンが、可憐な少女リーザに求婚するために、小舟に乗って運河を渡っていくのは、少女の運命に破滅をもたらしたもう一人の「海の男」の物語である『さまよえるオランダ人』を踏襲しているのか。

2006年05月23日

◆佐々木久実彫刻展

彫刻家,映像作家の佐々木久実さんの個展が,銀座のギャラリーなつかで始まった。

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佐々木さんが2004年の個展で発表したロシアで撮影した写真,映画には,一度見ると忘れられない濃密な空気感があった。今回展示されている不思議で愉快な形をした彫刻も,まるで世界と面白く出会うための道具たちとでもいうような存在感があり,いつまでも見入ってしまう。


佐々木久実彫刻展
2006年5月22日(月)~27日(土)
11:30am~6:30pm(最終日~5:30pm)


ギャラリーなつか
東京都中央区銀座5-8-17 GINZA PLAZA 58 8F
phone/03-3571-0130

2006年05月22日

◆モリトル&クズミン

3月に,モスクワのクローキン・ギャラリーで,《モリトル&クズミン:光あれ》展を取材。

2人組のアーティスト,ウルスラ・モリトー&ウラジーミル・クズミンは,1996年からケルンでライトアートの共同制作を行っている。展覧会について,『BT美術手帖6月号』最新号(2006年6月号)ですこしだけ紹介した。

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Photo by Wakana Kono
molitor & kuzmin シリーズ《影からの光》 1997

2006年05月21日

◆エルミタージュ幻想

ペテルブルクの文学と文化の授業準備のために,アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画『エルミタージュ幻想』(原題:ロシアの方舟,2002)をあらためて見た。2人の主人公が,現エルミタージュ美術館である冬宮に迷いこみ,時の旅人となって,ロマノフ王朝期のペテルブルクを駆け抜けるタイムファンタジーである。

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現代ロシア人である「わたし」と,19世紀のフランス人外交官キュスティーヌという2人の主人公の眼前に,走馬燈のようにくりひろげられる帝政ロシアの時空間。主人公たちはそれぞれ,現代人とヨーロッパという視点を代表していて,ロシアの歴史と運命が,2人の他者のまなざしによって,詩的かつ相対的な距離感で描かれている。

ところで,今週の報道によると,モスクワのボリショイ劇場は旧館は修復工事中だが,新館などを舞台に来季も5つの初演を行う予定で,なかでもソクーロフのオペラ初演出となるムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』が話題を集めている。加速したかと思えば,ときには一瞬を永遠にまでひきのばすようなソクーロフの映画における独特の時間の流れは,オペラでも発揮されるだろうか。

2006年05月17日

◆MOOKきのこ

連休中に,素敵な雑誌を頂いた。きのこをめぐるカルチャーマガジン『隔月刊MOOK きのこ』第2号(日本キノコ協会発行)。

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きのこ狩りの話,きのこを題材にした文学,アート,きのこが出てくる映画,ロシアのきのこの話,きのこについてのエッセーなど,まさにきのこづくし。「ロシア,キノコ・ツアー」のお知らせもある。同じ地上にありながら異世界でもある不思議なキノコの世界に興味を持つことは,たとえばロシアなどの外国の文化に関心を持つことと,心のベクトルとしては同じなのかもしれない。

今日は新鮮なトマトが入ったので,『MOOK きのこ』に載っていたレストランマッシュルームオーナーシェフの山岡昌治氏のレシピにそって,椎茸と角切りトマトのスープを作ってみた。椎茸とトマトの香りでチキンブイヨンがこんなにさっぱりするとは。次回は,椎茸と蕪とスモークサーモンのサラダに挑戦! 

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