◆世界の呼吸法
川村記念美術館と佐倉市立美術館で開催中の「世界の呼吸法――アートの呼吸 呼吸のアート」は。公立美術館と私立美術館が手を組んで行った試みである。展覧会の解説文にも「今回初めて佐倉の二つの美術館において開催される本展は,あたかも「呼気」と「吸気」のように,量感の間で人々の行き来が生まれ,佐倉をアートで呼吸する機会を提供するでしょう」とあるように,車で30分弱の微妙な距離にある2つの美術館を移動すると,蔵や林,田園,大型店,古い商店街などを見ながら,佐倉という町について,町における美術館の役割について自然と考えることになる。
インスタレーション《呼吸の技法》(2000年)を展示したのは,KOSUGI+ANDOというユニット。共に1953年生れの作家,小杉美穂子と安藤泰彦が1983年に結成した。暗いだだっ広い部屋で,幾つもの小さなプロペラが回っている。プロペラの横には,緯度と経度を示したプレートがある。佐倉を除けば,コソボ,チェチェンなど,どこも紛争地帯である。私が吸う空気は,誰かが吐きだした空気。そして誰かがその空気を吐きだした場所はそれほど遠くない。そしてその時間はそれほど遠くない……という意味の言葉が部屋の中央に綴られている。だが,暗がりの中でその言葉を読んだ時,その場所は遠くない。そしてその場所はそれ程近くない,という風に一瞬読み違えた。チェチェンはモスクワからそれ程遠いわけではない。だが,チェチェンの独立を認めず,チェチェンがロシアに属する以上,チェチェン人と自分達が同じ国民として同じ権利を受ける立場にあることを理解している首都の住人はあまりにも少ない。

