◆島へ
会議と入試の合間に北と南に出張に行き,日本の細長さを体感した月だった。札幌では北海道大学スラブ研究センターの研究会で発表し,報告を聞き,色々な方の意見を伺って勉強になった。久しぶりに友人たちと再会できたのも楽しく,札幌の雪の白さに心洗われるような気がした。
翌々日は気温差20度近い宮古島へ。そこからさらに船で伊良部島や大神島にも渡った。各地に残る湧水や御嶽(霊所)は,土地の記憶を感じさせる。言語と風俗調査のため1920年代に宮古島に3度来島したロシアの言語学者ニコライ・ネフスキー(1892-1937)も,きっと同じ場所に立ったにちがいない。ネフスキーは官費留学生として来日し,柳田国男や折口信夫と親交を結び,日本語,フォークロア研究で大きな成果をおさめてソ連帰国後はレニングラード大学などで教鞭をとったが,1937年にスパイ容疑で逮捕,粛清されてしまう(57年に名誉回復)。語学の天才で,現地に入って数日後には土地の言葉で話して周囲を驚かせたという。
島の自然もさることながら,夕食をとるために通った平良市の繁華街の外れの仄暗い佇まいが,言い表しがたい郷愁を誘った。昔,ある絵本で見て以来,ずっと求めていたものに初めて出会った気がする。それは日本各地の古い商店のイラストを集めた字のない絵本で,当時子供心に不思議な懐かしさを感じたものだった。気になって調べてみたら,福音館書店《こどものとも》シリーズの絵本『おみせ』(五十嵐豊子作)で,1980年に刊行されたとのこと。25年たっても記憶から色あせない傑作だったが,今は絶版になっている。同著者の『えんにち』も字のない絵本で,こちらもイラストレーションの空気感がすばらしい。


