◆ガガーリン
共同研究が佳境にさしかかってきた。滞在の終わりが近づくと,あと1週間でも余分に時間があればと思う。最近,1920年代の小説で『マハーバーラタ』のテーマがどんなふうに使われているかを調べていた。正確に調べるには,『マハーバーラタ』の現代訳ではなくて,作家が使った当時の訳を見る必要があり,そんな時はロシア国立図書館に行く。国立図書館4階の迷宮のような渡り廊下は静かで古めかしく,灰色がかった窓のむこうにはクレムリンが鈍く見えていて,モスクワで一番好きな場所かもしれない。
夜,友人のジャーナリスト夫妻の家で食事をする。雑誌『新目撃者』に期待していたのに,一貫性がなく記事の寄せ集めのような印象を与えることや,ロシア人と日本人の行動様式の違いについて楽しく話した。彼らが住むレーニンスキー・プロスペクト駅周辺の夜の風景も,モスクワを感じさせる光景のひとつ。宇宙飛行士ガガーリンの巨大な像と,旧ソ連の都市で見かけるタイプの大広場,遠くに見える科学アカデミーの異様な建築が織りなす光景は,昼間見るとキッチュに感じる。でも夜,照明で照らされると,センスが良いとか悪いとかの問題ではなく,ちょっと時空をねじらせるような迫力を持っている。
