◆旅する日本美術
東洋美術館の学芸員をしている友人と会って,作品の目録作成を通訳として手伝った。彼女は江戸期の美術の研究者で,大学卒業以来20年以上にわたって,ロシアでの日本美術の普及という目立たず報われない分野で仕事をしてきた。平均月収250ドル前後のモスクワで,クレムリン博物館などを除いた一般の美術館学芸員の月収は約30ドル。不便な場所に安アパートを借りるのでさえ月200ドルでは難しい時代にこの給与では,若い人たちは二の足をふんで学芸員になろうとしない。私と同世代の研究者も,学芸員を数ヶ月でやめて転職した。東洋美術館には予算不足で日本美術の文献もなく,学芸員が専門的知識を深めるための研修の機会も少ないので,日本美術コレクションの目録が完成するのは遠い日のことになりそうだ。
でも以前同館でラトヴィアから来た日本美術研究者と会った時,ラトヴィアの学芸員は,彼女の美術館では日本美術の研究書がさらに不足していると言って,モスクワの美術館にある古びたソ連時代の本を数冊分けてもらっていた。彼女は日本美術研究歴20数年にして一度も日本に来る機会がなかったが,その後やっと奨学金を得て日本に数ヶ月滞在し,美術館や大学を旺盛に飛び回っていた。原宿の浮世絵美術館で再会した日に二人で飲んだ日本酒の美味しかったこと。
