◆子どもたちの遺言
育児休業から復帰して2週間。大学の仕事と育児の両立は予想よりずっと厳しく、体の芯から痛めつけられたような疲れと悪寒で、もう2度も寝込んでしまう。
昼は手が離せず、夜もいまだに5回は目を覚ます1歳児の世話をしながら、早朝に自分の仕事をしていた休業中の生活は、仕事だけをしていた頃よりハードたったので、復帰後の生活がこんなに大変とは思っていなかった。4月に授業と教務委員が始まったら体がもつのか、夜中にたびたび子供を寝かしつけながら、不安で目が冴えてしまう。育児短時間勤務制度はあっても、仕事の絶対量は減らないので、自宅への持ち帰りの仕事が増えるだけで、解決にはならない。
復職前は、復帰後もなるべく子供に愛情と時間を注ぎたいと願っていたが、復職後はそんな余裕はなく、せめて明朝までに体調が回復して起き上がって仕事に行けますようにというのが唯一の願い、というワーキングマザーが、世の中にどれほどいるのだろう。
今日書店に届いた何冊かの本をめくる。谷川俊太郎の詩に田淵章三が子供たちの写真を添えた、『子どもたちの遺言』を読む。
当初、谷川俊太郎は作者である自分が子供たちに向かって遺言を書くという発想で詩を書こうとしたが、「まだ死からはるかに遠い子どもが大人に向かって遺言するほうが、この時代ではずっと切実ではないか」と思って、子どもの言葉で死と生を語ることにした。生まれたての子どもから成人式を迎える子どもまで、12の詩が収められている。
息子のために買った本ではないのに、子供たちの写真が面白いのか、息子も寄ってきて本をめくりはじめたので、「邪魔しないで」好きなように触らせてみた。というのも、生まれたての子どもの気持ちを綴ったこんな詩が載っていたから。
「生まれたよ ぼく」
生まれたよ ぼく
やっとここにやってきた
まだ眼は開いてないけど
まだ耳も聞こえないけど
ぼくは知ってる
ここがどんなにすばらしいところか
だから邪魔しないでください
ぼくが笑うのを ぼくが泣くのを
ぼくが誰かを好きになるのを
ぼくが幸せになるのを
いつかぼくが
ここから出て行くときのために
いまからぼくは遺言する
山はいつまでも高くそびえていてほしい
海はいつまでも深くたたえていてほしい
空はいつまでも青く澄んでいてほしい
そして人はここにやってきた日のことを
忘れずにいてほしい

谷川俊太郎・田淵章三 『子どもたちの遺言』(佼成出版社、2009年)



